月の光が降りそそぐ草原へやってきた。
裸足で立って舞台を確認する。
草の柔らかな弾力が全力で踊れと鼓舞するかのようだった。
今宵の舞台は星の上。
人間は私一人、オーディエンスは森羅万象だ。
一陣の風が駆け抜け、開幕を告げる。
彼女は踊りながら完全な表現者となるため、不要な物を捨てていく。
まず、オフィスのファイルを蹴散らした。
着たくもない制服を引き裂く。
デバイスを投げ捨て、自身が真実へと繋がる。
踊りがクレッシェンドしていくにつれて、彼女はある状態になる。
草原から彼女が消え、踊りだけがある瞬間。
踊りながら自分がそれを客観的に眺めている瞬間。
草原に汗と、心地よい疲労が漂いはじめた。
彼女の表現者としての仕事が終わった。
割れんばかりの拍手喝采は無く、荒い吐息だけが舞台に響き渡る。
しかし、喝采は届けられていた。
彼女の胸の内へ、直接的に。
彼女はとても、生きていた。
鮮烈に、生きていた。
そして彼女は世間へ戻る。
制服を着、デバイスを持ち、副業へ戻る。
これはあなたの物語。
ペドロ
なんかとても心に刺さって、何度も読み返しました。
素敵な詩をありがとうございます。